「日本の統合医療」について
一般社団法人 日本統合医療学会 理事長
伊藤 壽記 Toshinori Ito
- 一般社団法人 日本統合医療学会 理事長
- 大阪大学大学院薬学研究科 医療薬学専攻 特任教授
- 公益財団法人 大阪府保健医療財団 大阪がん循環器病予防センター所長
- ⼀般社団法⼈ エビデンスに基づく統合医療研究会 理事⻑
- ⼤阪⼤学医学部付属病院 移植医療部顧問
持続可能な健康長寿社会の実現のために、我が国の風土に合った日本型の統合医療を
今、医療が変わろうとしています。2011年の東日本大震災が引き金となり、個々人の価値観や人生観に変容をもたらし、自らの健康は自らで管理しようというセルフケアや予防医療への意識が芽生え、さらにはエネルギーに依存せずに必要に応じてエコロジーのすべ(術)を活用しようという機運が出てまいりました。
我が国は超高齢社会の到来とともに、慢性疾患の殆どががんを始めとする生活習慣病であり、それらの病は身体的、心理的、環境的、社会的な要因が相互に関連する“複雑系”です。こうした状況下で、生活習慣病に対して対症療法が主体の近代西洋医学による現行の医療だけでは自ずと限界があり、新たな医療体系の構築が必要です。すなわち、キュア(cure)を目指した、20世紀の「病院完結型」医療から、ケア(care)を目指す、21世紀の「地域完結型」医療へのパラダイムシフトが考えられています。
そこで、現行の医療と補完代替医療(相補・代替医療)(CAM)を有機的に融合させた統合医療がこれからの医療の方向性を示す一つの医療体系と考えられています。今後深刻な問題である高齢者医療(メタボリック症候群、ロコモティブ症候群、認知症など)や心身ともにアプローチしなければならない大規模災害後の後遺障害などは、保険の枠組みで行われている現行の医療では充分に対処できない領域であり、これらがまさに統合医療に求められるところです。2011年の東日本大震災では、当初近代西洋医学が項を奏さず、現地に入った各統合医療チームが大いに活躍しました。日本政府はこうした状況に鑑み、震災以降、統合医療に対する支援体制が本格的にスタートしています。
2012-13年には厚生労働省で「統合医療」の在り方に関する検討会を開催され、統合医療が定義されました。2014年からは、国民に統合医療の正しい情報を発信するデータベース(「統合医療」情報発信サイト)の事業が始まっています。また、2014年に設立された日本医療研究開発機構(A-Med)の枠組みの中で、翌年より統合医療に関する研究助成が始まり、年間1億円の研究費が計上されています。
統合医療の実施にあたり、2つのモデルが考えられています。一つは医療従事者が中心の集学的チーム体制で疾病に対応しようとする医療モデルであり、もう一つは地域のコミュニティが主体となってQOLの向上を目的とした社会モデルであり、これらが相互に連携した新たなコンソーシアムの創生が必要となります。前者は統合医療に関する臨床研究を推し進め、その結果得られたエビデンスを医療の現場や地域のコミュニティに還元していくことが求められています。また、後者では、平常時においては健康寿命の延伸を目指して予防医療やプライマリーケアを推進し、いざ災害などの有事に際しては、迅速に対応するといった両面性を有することが求められています。政府が提案している地域包括ケアでは、統合医療が重要な位置付けになることが期待されるところです。
最後に、持続可能な健康長寿社会の実現のために、欧米の統合医療的アプローチをそのまま継承するのではなく、我が国の風土に合った日本型の統合医療を開発推進していくことが求められています。
「日本の統合医療」の歴史
2011年 | 東日本大震災 |
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統合医療チームの活躍により急速浮上化 | |
2012年 | 統合医療の在り方検討会(厚労省) |
2013年 | 統合医療に係る情報発信推進事業 |
2013年 | 自由民主党統合医療議員連盟設立 |
2014年 | 地域包括ケアシステム概念具体化 |
2014年 | 日本医療研究開発機構(AMED)設立 |
2015年 | AMED統合医療に関する研究費増額 |
2016年 | 統合医療企画調整室開設(厚労省医政局) |
2017年 | 日玖(日本とキューバ)統合医療 |
シンポジウム開催・学術提携 | |
2018年 | 自然環境一体型統合医療研究所 |
八ヶ岳センター9月オープン | |
2019年 | 第6次世界中西医結合大会(上海)学術提携 |
2020年 | 自然環境一体型統合医療研究所 |
ふじのくに大井川センターオープン(予定) |